【チューボーですよ!】


誰か絶対やってると思いますが、探した限りでは無かったのでやっちまいました。被ってたらすいません!
ED後の仲×花です。





「おい、花!……ってなんだよ。またなんか食ってんのか」
「あ、仲謀。どうしたの?」
ちょうどあんぐりと口を開けて今日のおやつの果物を食べようとしていた花は、ずかずかと部屋に入ってきた仲謀を見て言った。
仲謀はあからさまに聞こえるように溜息をつくと、花の横にどかりと座る。
「……」
こちらをじっと見ている仲謀の様子に、花は少し頬を赤らめて口を閉じた。
「……何?食べにくいんだけど」
「お前、恋仲の男が隣に来たら普通『食べる?』って聞くんじゃないのか」
「……食べる?」
「いらない」
「……」
花は、内心『もうっ』と思いながら、口を先程よりは小さめに開けて南方から届いたという珍しい果物を食べる。
「……おいいしい!」
「うまいのか?」
「うん、仲謀は食べてないの?昨日の南から来た使者の人達が持ってきてくれたんだってよ?」
「……最近はそういうのは俺を通り越してお前んとこに行くようになってんだよ。ったく。すっかりみんな手なずけられちまいやがって」
「……食べる?」
「いらない」
「……ふーん、天邪鬼」
花がそう言って舌をだすと、仲謀は楽しげな顔をして椅子の背にもたれて花を見た。
「天邪鬼って?」
花は人差し指を顎にあて『うーん』と考え、日本の天邪鬼の話を仲謀にしてあげた。思っていることと反対の事を言うという天邪鬼の性格を仲謀に例えたことに何か言われるかと思ったが、意外にも仲謀はそこはスルーだった。
「へえ、そんな話があるんだ。お前の国は面白いな」
「仲謀の国もいろいろあるでしょ、同じだよ。私の国にはあるけど仲謀の国には無いのもあるし、その逆も」
花がそう言うと、仲謀の目が少しだけ真剣な光を帯びた。
「……お前の国にあって俺の国になくて、お前が欲しいのはなんだ?」
気遣う様な心配するような、花の欲しいものなら何でも手に入れるというようなあからさまな意志を込めた瞳に、花は赤くなった。
彼の真っ直ぐな気持ちが嬉しくて……でも少し照れてしまう。花はあちこちに目をやって、彼が言った言葉について考えた。
「うーん……そうだ!ホットケーキ!」
「ほっとけえき?」
仲謀の綺麗な眉がしかめられ、青色かがった瞳で不審そうに花を見る。花はにっこり微笑んでうなずいた。
「うん!ホットケーキ!よくお母さんが作ってくれたんだあ。ふわっとしてて甘くて……大好きだった。また食べられるなら食べたいな」
「……聞いたことないな。固いのか?木になる実か何かか?」
「ううん、丸くて……これくらいの大きさで、柔らかいんだよ。お店でも食べられるんだけど、やっぱり手作りが一番おいしくてね。ああ自分のことを考えて作ってくれたんだなあって、口も美味しくて心もいっぱいになる様な。お菓子…かな?ホットケーキミックス……なんてないよね。……うーん、小麦粉っていう白い粉と…あとは卵と、牛乳かな?それを混ぜて……」
花が思い出しながら話すホットケーキの作り方を、仲謀は珍しく大人しく聞いていた。



「ちゅっ仲謀様……!!?なぜこのような所に!?なっ何か食事に粗相でもございましたか!?」
フラリと城の厨房にあらわれた仲謀に、総料理人が素っ頓狂な声をあげて平伏した。この総料理人がこの厨房をまかされて10年、見習の頃も含めれば20年になるが、孫家の人間が来たことなどない。先程だした昼飯が何かまずくて誰かの首をはねに(比喩ではなく実際に)きたのかと、厨房の料理人や使用人たちは皆青ざめる。
「……」
仲謀は無言のまま厨房に入り、物珍しげにあちこちを見ながら奥へと歩いていく。
そしてかまどの前に足を止めると、腰に手をあて考える様に特大の中華鍋と作業台を見た。
「な、なんでしょう?何か……???」
総料理人が真っ青になりながら、仲謀の視線の先の何が気になっているのか気に入らないのかあたふたと聞く。
仲謀はちらりと総料理人を見ると、言った。
「……作りたいものがある。協力しろ」




ドン!
と置かれた珍妙な物体に、花は沈黙した。
「……仲謀、これ…何?」
花の前に置かれているのは、まずデロンとしていた。そして白いというか透明と言うか……乳白色のような色をしている。しかしそれは一律その色というわけでわなく、嫌な感じに斑になっている。その物体の下の方からジュクジュクした……何か汁のようなものがにじみ出ているのも見える。大きさは仲謀の手のひらを広げたぐらい。それの上に透明なドロドロしたものがかけられていた。
仲謀は腰に手を当て立ったまま花と皿を見下ろしている。
「ほっとけえき、だ」
「……」
とてもそうは見えない、とは、花は賢明にも言わなかった。先日話した花の元の世界の話を覚えていてくれたのだろう。なんとか再現しようとしてくれた仲謀の気持ちは嬉しい。
……嬉しいのだが、これは食べなくてはいけないのだろうか?
花は極めて不安になったが、かろうじて笑顔をつくった。仲謀の優しさが嬉しいのは事実だ。
「ありがとう。前に話してたのを覚えてくれてたんだね。嬉しい」
「……」
仲謀は、ちっと舌打ちを打つと横を向く。しかし花にはもうそれが彼の照れ隠しだと言うのはわかっている。事実彼の耳は真っ赤なのだ。
花はおそるおそる箸でその物体をツンとつつく。
それはプルンプルンと全身を震わせ、その様子に花も身を震わせた。しかし仲謀の気持ちに応えるには攻めて一口でも食べなくては…!
花は心を決めると、一口分を切り取ろうと箸を動かした。しかし……

きっ切れない……!

それはフルフルを柔らかそうなのに意外に固く、箸では切り取れないのだ。
「あ、あれ…!んっ!えい!」
花が頑張っていると、気づいた仲謀が手をだして箸を取り上げ、自分も切ろうとしだした。
「なんだこれ、切れないな」
いらいらとそう言った仲謀の指を見て、花は目を丸くした。
「仲謀!指、どうしたの?手の方にも…!」
仲謀の指は赤くなったり切り傷があったり、散々な様子だったのだ。仲謀は「あ?」と言うと、花に言われて初めて気が付いたように自分の手を見た。
「ああ、これは大丈夫だ。もう薬も塗ってある」
「薬を塗ったってこれ……これ、まさか…」
花は仲謀の指を見て、隣の不気味な物体がのった皿を見て、そして仲謀の顔を見上げた。
「……まさか、これって仲謀がつくってくれたの?」
「……悪いかよ。人に作ってもらったのがうまいって言ってたのはお前だろうが」
「仲謀……!」
花の目が潤みだすのを見て、仲謀はギョッとしたように後ずさる。
「なっなんだよ!泣くなよ!」
「違うの…!嬉しくて…仲謀が自分から作ってくれたなんて、産まれて初めてなんでしょ?私のためにこんな怪我までして……」
仲謀は居心地悪そうに肩をすくめた。そして力任せに『ほっとけえき』を箸で引きちぎる。
「ほら!切れたぞ。食え!」
「うっっ!!」
口に押し込められた『ほっとけえき』は、この世のものとも思えないくらいの触感と味だった。
花が青ざめて目を白黒させているを見て、仲謀も少し口に入れてみる。
「うぇっ!げえっ!!なんじゃこりゃ!おまえこんなもんがすきだったのか!!?」
「ちっ違うよ!ホットケーキはこんなんじゃないよ。もっと……」
その時花はいいことを思いついた。両手をパンと体の前であわせて仲謀を見る。
「あ、じゃあ私、つくってあげる。私もホットケーキミックスでしか作ったことないから上手くできないかもしれないけど、でも大体の作り方はわかるし。ね、厨房に連れて行ってもらえないかな?」
きらきらと目を光らせて頬を紅潮させて上目使いでおねだりをしてくる花に、仲謀が対抗できるわけはなかった。





「これが小麦粉…ね。パンみたいなのもあるし小麦粉はあるんだよね。あとは膨らし粉みたいなのってあるかな…あ、卵の白身をメレンゲみたいにすればフワフワになるかな?それから…牛乳はないよね。じゃあ水かな…」
「これは?混ぜればいいのか?」
仲謀が大きなスプーンのようなもので、全部の材料を混ぜだすと、花が慌てて止めた。
「だ、だめだよ練っちゃ!さっくり…」
「さっくりってなんだよ、さっくりって」
「さっくりはさっくりだよ。ほらこうやって……」
ぴったりくっついて厨房の一角でいちゃいちゃしながらホットケーキを作っている厨房と花を、総料理人を含めた皆は壁の陰から恐々覗いていた。必要な物やかまどの日の調整で呼ばれたらすぐに駆けつけられるように。
今、仲謀がもったスプーンの上に花が小さな手を添えて、二人で一緒に『さっくり』とまぜている。仲謀はめんどくさそうな顔をして混ぜているが、花にくっついてあれこれ言われているのが嬉しいのが丸わかりだった。
ジュッという音と共に鉄なべにタネを流しいれ、頃合いを見てひっくり返す。
「おお〜!」
綺麗なきつね色に仲謀が声をあげた。花は嬉しそうに仲謀を見る。
「ね?おいしそうでしょ。仲謀に食べてもらえたら嬉しいな」
「たっ食べるに決まってるだろ!……お前がつくったんなら」

…もう!きついことを言うかと思えば堂々とこういうことを言うんだからなあ。言われた方が反応に困っちゃうよ

花は赤くなりながら皿を探す。はちみつはないから黒蜜をかけて。
おいしそうなホットケーキのできあがり。

二人で一緒に食べたホットケーキは、それはそれは甘くおいしかったそうです。





おしまい