【都督の初夜6 その夜】


  

寝支度をして灯りを消し、二人で寝台に横たわる。
これまで特に会話もなかったし、視線をしっかりも合わせていない。
ようやく二人きりになったし、さっきまでケンカ状態だったし、花はなんとなく気まずかった。
仲謀のおかげで公瑾が自分のことをすきでいてくれることはわかったけれど、今日の後半の出来事について公瑾はどう思っているのだろう?
したくてしたくてしょうがないというわけではないが、できれば抱きしめてもらって安心したい。
昨日のあの様子からしたら、今夜も当然……その、そういう展開になると思っていた花は、となりの公瑾が体を離したままこちらに手を伸ばす様子がないのに気付くと、暗くなった。鼻の奥が熱くなってじわっと目に涙がにじんでくる。
「……公瑾さん……ごめんなさい」
ケンカをしたのだから、ちゃんと謝らないと、と花は言った。暗闇の中で公瑾が驚いたようにこちらに寝返りを打つのを感じる。
「どうしたのです。泣いているのですか?」
「あんな……あんな大事にしちゃってごめんなさい。公瑾さんは心配してくれただけなのに……」
公瑾がため息をついたのを感じる。続いて暖かい手が花の頭の上にポンと置かれた。
「怒ってなどいませんよ。竹簡のあれは……あれは私もやりすぎたと反省したところです」
「でも、じゃあ、怒ってないならどうして……」
「どうして、何ですか?」

「どうして何もしないんですか?」

ぱちくり、と暗闇の中で公瑾が目を瞬いたのを花は感じた。まじまじと刺すような視線も。
花は顔が赤くなるのを感じた。
暗闇でよかった。明るかったらとても言えなかっただろう。

「……何もしないとは?」
なぜか妙に慎重な公瑾の声。花は一瞬言葉に詰まったが、ここまで言ったのなら同じだと肚を決めた。
「その、昨日みたいなことです」
「……」
沈黙。
顔をとても見れなくて花がぎゅっと目をつぶっていると、静かな公瑾の声がした。
「してもいいのですか?」
今度は花がぱちくりと目を瞬いた。
「はい……っていうか、え?」
話しが見えない。何故花の許可を求めるのだろう?夫婦なのだから当然OKだと思うのだが。
花は心配になった。
「何か、昨夜、私のやり方がへんだったんでしょうか?すいません、私あまりしらなくて普通はどうするのとか……」
「そういうわけではありませんよ。その……体は辛くないのですか、という意味です」
「からだ……」
「初めての女人に対してかなりの無茶をしてしまったと、私は反省しているのです。痛いところとか辛いところがあるのではないですか?」
花は、公瑾の言ってる意味がわかると、かあああああああっ!と頭に血がのぼるのを感じた。耳も頬も、すべてが熱い。
「い、いえ……いえ、痛いと言えば痛いんですけど……」
そう、確かに痛い。
「痛いですけど、これは普通のことなんですよね?だから、その、昨日の今日でもいいのかなって思って。ダメなんですか?」
今度は公瑾が言葉につまった。
「……私は男なので詳細についてはわかりかねます。ですが、あなたが辛いだろうと思い今夜は何もせずに眠ろうと思っていたのですよ」
「えっと……」
恥ずかしくて顔から火がでそうだが、花は頑張って言った。
「公瑾さんに……そういうことをされるの、は、嫌じゃないです。す、好きです」
このまま微妙な気持ちのまま眠るよりも、お互いの気持ちを確かめ合いたい。

愛しい新妻にそんなことを言われた公瑾は、当然ながら理性がとんだ。
あんなに反省し神に許しを請うたすぐその夜だというのに。
ガバッとのしかかり細い腰を引き寄せる。
胸が熱く頭の中も熱く、こみ上げてくる何か……愛しさだろうか……に押し流されて、花を無茶苦茶にしてしまいたい衝動に駆られた。
暗闇の中で視線をあわせる。

「……私は、妾をつくるつもりはありません」

キスされるとばかり思っていた花は、公瑾の言葉に目を開いた。
「女人の相手はあなた一人で手いっぱいです。しかしそうなると私の伽の相手はあなただけということになります。ですから、あなたにあまり負荷をかけないように間を二日あけようかとか、一晩には一度だけにしようかとかいろいろ考えていたのです」
「公瑾さん……」
公瑾は頭を下げ、花の耳をそっとくわえた。
「…んっ…!」
公瑾はそのまま耳たぶをなめ息を吹きかけ、低い声で囁く。
「ですが考えを変えました」
公瑾はそういうと、顔をあげて花の目を覗き込んだ。
暗い部屋の中でもこれだけ近ければお互いの顔がわかる。

「覚悟をして、私を受け止めてください。あなたならできるでしょう、きっと」

公瑾はそういうと、唇を合わせた。深く、浅く、ついばむように何度も何度も口づける。二人の息が次第に荒くなり、口づけも深くなった。
「あなたに……あたなに私のすべてを注ぎ込みたい……」

公瑾はそういうと、舌で花の舌を絡め取りながら右手をゆっくりと下半身へと伸ばした。
既に暖かく潤むそこを指で優しく確かめる。
「あ……っ」
長い人差し指を優しくなぞるように這わせると、花の腰が浮きあがった。
「ん……!っこ、公瑾さ…ん……っあっ」
熱い反応に公瑾はため息をついた。
あっさりと終らせてあげようと思っていたのだが、とてもそれでは自分が収まりそうにない。

今夜もすっかり満足するには時間がかかりそうだ。







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おしまい